世界的な観光地としての地位が揺るぐことのないベネチアですが、歴史的につながりの深いヴェネト州の周辺都市もそれぞれに魅力があります。当記事では、ベネチアを拠点としてエクスカーションで行くことができるヴェネト州の各都市について、僕が実際に訪問した所感などとともにまとめて紹介してみたいと思います。
※表記に関して、当ブログではヴェネツィアの記述をベネチアと統一しているため、この記事では諸都市についてもトレヴィーゾ>トレビーゾ、パドヴァ > パドバ、ヴェローナ > ベローナ、ヴィチェンツァ > ビチェンツァ、ヴェネト州 > ベネト州と表記します。
目次
ベネチア共和国と内陸部テッラフェルマとの関係
ベネチア共和国は14世紀から15世紀にかけて、徐々に内陸部への支配を拡大して主要な都市を組み込んでいきました。この拡大過程は「テッラフェルマ(内陸部)の征服」として知られ、現在のイタリア北東部地域の政治バランスを大きく変えました。
ベネチアの内陸部支配は、1797年のナポレオン侵攻による共和国崩壊まで続き、一時的な反乱などがありながらもベネチアと従属都市間の経済的・文化的統合は進んでいきました。ベネチアはテッラフェルマの統治において、柔軟な姿勢で臨み、ポデスタという行政官を派遣しつつも、征服した各都市が要求した法令の維持をほとんどの場合認めたとされています。
15世紀後半の大航海時代の幕開けによって、ベネチア共和国が東洋貿易の独占的な地位を失う中で内陸都市との関係性は重要になっていきます。イタリア都市国家に対する防衛ライン、木材供給の拠点として、またドイツなどとの通商路の確保など、テッラフェルマは軍事的にも経済的にもベネチアを支える役割を担うようになりましたが、その国際的な緊張関係の中で、ベネチアの十人委員会という最高行政機関がテッラフェルマの行政にも深く関与していくようになっていきます。
詳しく知りたい方は下記記事の参考図書などにぜひ目を通してみてください。
【旅する前に読んでおきたい】おすすめのベネチア本まとめメストレ
ベネチア本島のサンタ・ルーチア駅のお隣、本土側のメストレ駅。ここはベネチア周辺都市というよりは、ベネチアのベッドタウン的な土地なのでぶっちゃけ何もありませんが、高騰著しいベネチア本島と比べるとかなりリーズナブルな宿泊施設が多くあるので、滞在先の候補になるかもしれませんので軽く触れておきます。
メストレ駅は非常に多くのバックパッカーが乗り降りしており、駅のチケット売り場は結構混雑するので乗りたい列車の時間が決まっている場合には事前に購入しておくことをおすすめします。(イタリアの鉄道チケットは決まった列車しか乗れません)
ベネチアは24年から本島外からのアクセスに入島税が取られるようになりましたが、24年現在では4月から7月までの特定日だけが対象となっていました。上の写真右手のブースで支払うようでしたが、実際、どのように運用されていたのかはなぞです。
トレビーゾ
ベネチアとの歴史的な関係性
トレビーゾは、1339年にベネチア共和国による最初の陸上征服地となって以降、ベネチアに最も近い内陸領地として防衛の要として重要な役割を果たしました。ベネチアの支配下でトレビーゾは強固な城壁が築かれ、主に農業や製粉業の発展と運河を利用した貿易により経済的にも反映しました。
市内中心部のカステッロ広場、市庁舎の外壁にベネチアを象徴する有翼の獅子のレリーフを見つけました。
見どころ
複数の川や運河に囲まれるトレビゾは小ベネチアと呼ばれてはいますが、実際の街の雰囲気はそれほどベネチアみを感じません。駅前から中心部に向かう際に中世に築かれた城壁が川沿いに残っているのが目に入ります。
市内にある大聖堂には、ベネチア派の巨匠ティツィアーノの作品が祭壇の右奥の博物館の入り口の奥に展示されています。
トレビーゾはイタリアの発砲ワインであるプロセッコの主要な産地としても知られ、「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘陵地帯」はユネスコの世界遺産にも登録され、ワイナリーツアーなども盛んなようです。トレビゾ中心部からさらに足を延ばしてみてもいいですね。
トレビゾ発祥のベネトンは市庁舎横に大きな店舗を構えていました。街はずれには同じくトレビゾ発祥のデロンギの本社、またティラミスを考案したリストランテ「Le Beccherie」も市庁舎のすぐ裏手にあります。
ベネチアからのアクセス
ベネチアからはトレビーゾ駅まで鉄道で30分程度の道のりです。運行本数も多く運行時間も長いので気軽に日帰りで行って帰ってくることができる距離感です。夜9時過ぎまで明るい夏場であれば、昼すぎにベネチアを出発し、夕食を食べて帰ってくるくらいでも十分に楽しめると思います。ただ、正直見どころは少ないので、日程が短いならベネチアを歩き回った方が満足度は高いと思います。
パドバ
ベネチアとの歴史的な関係性
古代ローマ時代から重要な都市であったパドバがベネチアに併合されたのは1405年。政治的独立は失われたものの、文化的・学術的には中心地としての地位を維持しました。特にパドバ大学は、ベネチアの保護下においては唯一認められた大学機関として学問の自由と自治が守られ、特に科学と医学の分野で著名な学者を輩出しました。地動説のガリレオ・ガリレイが教鞭をとったことでも有名ですね。
サンマルコ広場の時計台を彷彿させる24時間時計があるシニョーリ広場には、ベネチアを象徴する有翼の獅子像が柱の上に置かれています。
見どころ
パドバには多くの歴史的遺構が残りますが、ジョットによるスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画は必見です。西洋絵画史において、固定的な表現で描かれたビザンチン様式から、自由闊達なルネサンス様式への足掛かりとなる重要な作品で、聖書になぞらえた場面が所狭しと描かれていて見ごたえがあります。
15分の事前動画、15分の礼拝堂訪問というコースで1枠25人までの枠内で観覧できます。訪問の24時間前までに予約を行う必要があるため、パドバに行く際は忘れずに予約しておきましょう。人が入り込まない状態を撮影するために移動ルートの最前列を確保することをおすすめします。最初の数秒が勝負です。
僕が訪問したときは、訪問時間前の枠でもいつでも行っていいと言われました。ただし、入れるのは一度きりということでしたが、予約の具合で割とゆるい運用で行われているようです。なお、礼拝堂を併設している市立美術館もかなり多くの作品を所蔵しており、美術好きの方は楽しめると思います。
公式の予約サイト > https://cappelladegliscrovegni.vivaticket.it/
サンタントーニオ・ダ・パードヴァ聖堂の前に、美大受験生にはおなじみの石膏デッサンの定番モチーフ、ガッタメラータの騎馬像のオリジナルがあります。が、僕が訪問したときは足場が組まれ、仮囲いに囲われていてその全容が見えませんでした。これに上って見られるようなのですが、立ち入り禁止になっていました。。。
このあたりまで足を延ばすなら、プラート・デッラ・バッレというローマ時代の円形闘技場跡に残る広場やパドバの植物園なども合わせてめぐってみましょう。
ベネチアからのアクセス
ベネチアのサンタ・ルーチアから鉄道で30分弱の距離感です。ベネチアからの短距離のエクスカーションでは最も訪れやすいですね。見どころの多さという点では、トレビーゾよりもパドバの方がおすすめですが、逆に見どころが多いので日帰りよりもいっそ宿泊して観光した方がいいかもしれません。
パドバの街は結構広く、見どころも市内に広がっているのでバスやトラムを利用するとかなり楽に移動できます。駅前のチケット売り場で、1日チケット(24時間ではなく深夜まで有効)を必要日数分だけ買っておくのをおすすめします。
ビチェンツァ
ベネチアとの歴史的な関係性
12世紀以降、自治都市として発展したビチェンツァでしたが、1387年にはミラノ公国の支配下に、そして1404年にベネチア共和国の支配下に置かれるようになりました。ベネチア支配下においては、特にその建築様式への影響が大きく、ベネチアでも活躍し、西洋建築に大きな影響を及ぼしたアンドレア・パッラーディオの建築が数多く残り、これらの建築物は現在、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
ヴィチェンツァのシニョーリ広場には、ベネチアの小広場のように二本の柱が建っています。もちろん片方はベネチアの象徴である有翼の獅子像ですが、もう一方はベネチアの旧守護聖人テオドールではなくキリスト像が設置されています。ヴィチェンツァは古くからキリスト教の重要都市であったそうで、1640年に設置されたキリスト像は「都市と市民の名誉のため」に決定されたのだとか。
見どころ
世界遺産登録されているだけあって、めぼしい観光拠点を訪問できるミュージアムパスが用意されていたり、各所での説明書きなども充実しています。郊外にもパッラーディオによる邸宅が散見できるので、じっくり腰を据えて観光してもよいかもしれません。
市立絵画館のパラッツォ・キエリカーティは、やはりパッラーディオによる建築が際立ちますが、ベネチア派の絵画作品が多く所蔵されており、絵画鑑賞を目的に訪れる価値が十分にあります。下記記事で取り上げた作品もいくつかここで見られます。
18世紀の風景画と見比べてわかるベネチア今昔オリンピコ劇場はパッラーディオの最後の設計物で、古代ローマ遺跡でよく見る野外劇場を模した屋内劇場です。これは世界初の恒久的な屋内劇場であるとされています。舞台背景の街並みは遠近法を用いて作られており、面白い視覚効果がありました。
ベネチアからのアクセス
ベネチアのサンタ・ルーチアからは鉄道で1時間半から2時間程度の距離感です。日帰りもできなくはない距離ですが、この街も見どころがたくさんあるのでできれば市内に宿泊してじっくりと観光したいところです。
市バスがたくさん走っているのですが、路線の番号とバスに掲示されている番号が違っているときがあったり、かなりわかりづらいと感じました。市内のルートであれば間違えても大きなダメージはないですが、郊外向けのバスに乗るのはかなりリスキーだったのに加え、この街では英語が通じづらかったので、なるべく市内のわかりやすい場所に宿を取っておくのがいいと思いました。
ベローナ
ベネチアとの歴史的な関係性
ベローナもローマ時代から続く重要な都市でしたが、1405年にベローナは正式にベネチア共和国の支配下にはいりました。ベローナのワインや農産物はベネチアを通じてヨーロッパ各地に輸出され、ベローナは経済発展を享受しました。そしてベネチアの芸術家や建築家がベローナを訪れ、ベネチア風の要素が取り入れられていきました。
露店が所狭しと並ぶエルベ広場の北西部、大理石の柱の上に有翼の獅子が配置されています。
見どころ
ベローナと言えば、なんと言ってもロミオとジュリエットですね。ジュリエットの家は観光客が尽きません。なぜかみんなジュリエットの胸をさわって記念撮影をしていきます。この撮影のための行列が建物の外まで長く続きますが、中庭に入るだけなら特に行列に並ばなくても大丈夫です。
町の中央にあるアリーナは、ローマのコロッセオとナポリ近郊のカプアの円形劇場に次いで3番目に大きな円形闘技場です。ここでは夏場、野外オペラが行われています。100年続くアイーダの上演は、間に休憩がありますが夜9時から3時間の長丁場です。石の上に座り続けるのは結構つらいですが、なかなか希少な体験でした。
チケットはこちらの公式サイトで予約できます > https://www.arena.it/en/arena-verona-opera-festival/tickets/
大きな手荷物は持って入れないのでなるべく手ぶらで訪問してください。僕の一眼レフはでかいからダメだと言われてしまいました。。小さめのミラーレスカメラを持ってる人は見かけましたが割とシビアです。飲食物の持ち込みもできません。あとは会場の内外でお尻に敷くクッションも売っているので買った方がよさそうです。日没後は多少気温は下がりますが、石の保温性が高くてずっと暑いので扇子があるといいですかね。逆に夜風が肌寒いと感じる女性の方がいるかもしれません。
ベネチアからのアクセス
ベネチアのサンタ・ルーチア駅からは鉄道で2時間半程度。メストレ駅から1時間半ほどで結ぶバスの路線もあるようです。駅前から街の観光中心部まではちょと距離があるので(バスも出てますが、チケットの販売機がずっと行列ができていました)日帰りはちょっと厳しいかなという感じです。
コルティナ・ダンペッツォ(ドロミテ山脈)
ベネチアとの歴史的な関係性
1412年、ヴェネツィア共和国はアクイレイア総主教領および神聖ローマ帝国と対立し、コルティナを含むカドーレ地方を征服しました。1418年には、アクイレイアの支持者であるアントニオ・ディ・ラセナが一時的にコルティナを奪還しましたが、1420年には再びヴェネツィアの支配下に入りました。
見どころ
26年に冬季オリンピックの開催が決定しているウィンタースポーツのメッカ、コルティナですが、夏場のドロミテの絶景も最高です。岩壁がせりあがった独特の景観はこの地域ならでは。町自体は非常に小さい規模なので、湖畔や山登りなどアクティブに過ごしましょう。
ベネチアからのアクセス
ベネチアからはマルコ・ポーロ空港とメストレ駅から長距離バスが出ています。僕は空港からバスで向かったことがあるのですが、当時、Google Mapのバス停の表示がとんでもなく間違っていたためにバスを逃し、大きく時間ロスしてしまったことがあります。バス停は空港の中央出口から出てまっすぐのスロープに沿って左折した先にあるので間違えないようにご注意ください。紙にCORTINAと表示された案内があるので探してください。
ベネチアからドロミテの湖畔への1日ツアーなどもあるので、ベネト州の各都市部とは違った体験ができるので自然が好きな方は活用してみてください。
僕はコルティナからさらにエールバルト、そしてオーストリアのインスブルックまで山岳部を抜けるルートを旅したことがあります。ローカルバスや列車を何度も乗り換えていくので難易度がちょっと高めですが、ひたすらに絶景が続くルートでおすすめです。
まとめ
イタリアの観光ガイドは、ローマ、ミラノ、フィレンツェ、ベネチアの4都市が取り上げられるものばかりですが、イタリアはそれ以外にも魅力的な街が数えきれないほどあります。今回はベネチアから気軽に足を延ばせる諸都市を取り上げてみました。
ベネチアだけでも1週間ではとても回り切れないほど見どころがあるので、4大都市周遊のようなルートではなく、じっくりとベネチアを中心にその1000年の歴史を満喫する旅路を組んでみてはいかがでしょうか。