世界で見つけたドガの「14歳の小さな踊り子」コレクション

鮮やかな色彩と躍動感あふれる絵画で世界中にファンのいるエドガー・ドガですが、世界の美術館を回っていると、絵画だけではなく立体作品も数多く展示されていることに気が付きます。

躍動感あふれるラフな秀作には魅力的なものが多く、彫刻家としての才能の高さを感じるのですが、実はドガが生前に発表した作品は今回取り上げる「14歳の小さな踊り子」だけなのです。

この作品の複製品(鋳造品なので本物扱いです)は、世界の名だたる美術館に収蔵されていますが、その展示は傑作揃いの展示室の中でもひときわ異彩を放っています。

この記事では、そんな「14歳の小さな踊り子」を世界の美術館で観覧してきた記録をまとめてみます。

エドガー・ドガとは

1934年にフランスに生まれた画家。日本人が大好きな印象派の初期メンバーの一人とされています。が、屋外での鮮やかな光の印象を捉えた他の印象派の画家とは異なり、彼の作品は屋内での人工照明を生かしたものが中心です。

ドガの鮮やかな色彩が印象的なバレリーナの絵は、どこかで目をしたことがきっとあると思いますが、ネット上で見る絵はかなり彩度が高めに表示されていることが多いので、実際に美術館で展示されている作品を見てみると意外と暗めの印象を受けます。

アカデミック美術に対して、目で見た印象や感性を重視した印象派運動において、官立美術館で学んだ経験を持つドガの作品はアカデミックな技術や写真を活用した分かりやすく美しい表現で人気を博しました。

制作に時間がかかる油絵ではなく、パステルを利用した表現技法により作品数も多く、現在では世界中の美術館でその作品を見ることができます。

『14歳の小さな踊り子』とは

1881年の第6回印象派展覧会でドガが生前に発表した唯一の彫刻作品。(仏語: La Petite Danseuse de Quatorze Ans)

実際に14歳の踊り子をモデルにした作品で、その表現が生々しすぎるとして酷評されてしまいました。このため、ドガが生前に大量に作った彫刻作品は彼が亡くなるまで世に出されることがなかったといういわく付きです。ちなみに全8回の印象派展のうち、この作品を発表した次の第7回だけは作品を出品しなかったというあたりにも彼のショック具合が伺えます。

オリジナルの作品は蝋(ロウ)製で、リアリティを出すために頭髪部は人髪が埋め込まれた上に蝋で固められているという凝った作りがされていますが、現在は、このオリジナルをもとにした20点を超える鋳造品が世界各国の名だたる美術館でコレクションされています。

作品に込められたドガの変態性については、山田五郎さんが下記動画で詳しく解説してくれていますが、これを見るとドガへの見方が変わります。笑

展示作品の訪問記録

それでは、ここからは僕が実際に現地で見たことがある展示作品を並べてみたいと思います。鋳造可能な素体とは違い、ボディス(胴体)とチュチュ(スカート)は複製が難しいため、いずれの展示作品にも個性があって、見比べてみると楽しめると思います。

ワシントン美術館|ワシントン

オリジナルの蝋の彫像はワシントンのナショナルギャラリーに寄贈され収蔵されています。オリジナルをみると、着衣の上にも蝋がかかっているように見えますが、鋳造の際にどのように着衣を外して元に戻したのか気になるところです。

この美術館にはオリジナルを含めてなんと4体もの作品が展示されているのですが、着衣と素体の作品がそれぞれ2体ずつ正面に向かい合って並べられている様子は圧巻です。

ちなみにドガ以外にも、ロダン作品が数多く集められたこの展示室にはロダンの考える人の展示もあります。ドガが生前に発表することなく、死後に世に出た彫像作品がこの隣の展示室に大量に集められているので必見です。

世界で見かけたロダンの「考える人」コレクション

着衣の2体の装束は、ボディス(コルセット)とチュチュ(スカート)のデザイン、カラーリング、更にリボンの飾られ方もそれぞれに違っているので、その違いを見比べるのも楽しいです。

なお、23年4月に環境団体を名乗る二人組によるペンキ塗りつけ事件が起きてしまいました(参考記事)ここ数年、こういった活動家もどきの犯罪行為が目立つのが残念でなりません。

シカゴ美術館|シカゴ

短いスカートに対して、色味の強い髪の毛を結ぶリボンが大きいのがシカゴの踊り子の特徴です。

メトロポリタン美術館|ニューヨーク

メトロポリタン美術館に展示されている踊り子は、スカートの広がりが大きくピンク色の発色も強く華やかな印象です。ここの展示はガラスケースがありません。

メトロポリタン美術館にはドガの絵画作品の展示数も多く、また彫刻作品の専門展示エリアもあります。そこには着衣のない素体の銅像も展示されていました。

ボストン美術館|ボストン

ボストン美術館では、1876年の第2階印象派展に出品されたクロード・モネによる「ラ・ジャポネーズ」を背景にガラスケースの中に収まって展示されています。

ボルチモア美術館|ボルチモア

モネなどの印象派の絵画が並ぶ室内に、現代作家のオマージュ作品と向き合う形で展示されていました。

ここの少女のスカートのカラーはピンクで膝まで届く長さ。さらに折り目もきれいに整っているので優等生という感じがします。正面に配置されたオマージュ作品のスカートが藁を束ねたような大ボリュームの動的な印象との対比でとても静かで落ち着いた印象を受けます。

ちなみにこのボルチモア美術館は世界最大の500点ものマチス作品を所有していることでも有名ですが、アメリカでも治安が悪いことで有名なこの地に観光で訪れたことがある日本人は少ないかもしれません。

フィラデルフィア美術館|フィラデルフィア

やはり印象派の作品が並ぶ展示室の端の方にドガの絵画作品と並んで展示されていました。

折り目が細かく入った色味のないスカートからは、なんとなく鎖帷子のような重厚感を感じます。展示室の端のほうに置かれているので、背面の鑑賞がしづらかった記憶があります。

アルベルティーエム|ドレスデン

ドガの踊り子を描いた絵画が並ぶ展示室でガラスケースのない展示です。少し色味の強めな装束で、スカートの丈も短いので他とくらべて躍動感があるように感じますね。

テート・モダン|ロンドン

ロンドンのテムズ川沿いにあるテート・モダンには、現代アートの有名作品が並ぶボイラーハウスと呼ばれる北館の2階フロアにガラスケース収められて展示されています。静かなスカートのデザインはオリジナルに忠実な印象ですね。

まとめ

同じ作品でありながらも、展示によって異なる姿というのはパーツ付きの鋳造作品ならではで、次にどんなものに出会えるのか楽しみな作品です。考える人やフェルメールなどと同じく、この作品を世界の美術館で見つけて回るのも個人的なライフワークのひとつなので、また違うものを見つけたら追記していきたいと思います。

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