海上に広がる広い潟(ラグーン)の上に木の杭を打って作られているのがベネチアの本島ですが、そんな潟が広がる本島周辺のエリアには数多くの小島があり、公共交通機関(船)を使ってアクセスできる場所もいくつかあります。有名なムラーノ島・ブラーノ島に限らず、ベネチア本島にはない魅力を持った島々は、日帰りでも十分に楽しむことができるのでぜひ訪れてみてほしいと思います。
当記事では、そんなベネチアの離島の島々についてその魅力やアクセス方法などを解説してみたいと思います。
目次
ムラーノ島
島へのアクセス
空路からベネチアへアクセスする際に、その玄関口となるのがムラーノ島です。空港からはALIAGUNAの水上船で、最初の到着地Murano Colonna駅まで片道4ユーロで30分ほどで行くことができます。本島までは15ユーロかかるので、ここで乗り換えてムラーノ島でACTVのヴァポレット(水上船)のチケットを買って移動すれば、少し時間は余分にかかりますがお得に移動ができますね。
詳しいベネチアへのアクセス方法は下記の記事で解説していますので初訪問の方はあわせてどうぞ。
もう迷わないベネチア本島への入り方(陸路と空路を解説)本島ではなくブラーノ島に直接向かう場合には、少し北上してMurano Faro駅から12番のヴァポレットに乗り換えましょう。
Murano Colonna駅の駅前にはさっそくムラーノグラスの販売店もあり、ここには有人のヴァポレットのチケット売り場もあります。
ベネチア本島から向かう場合には、カンナレージョ地区にあるF.te Nova駅から発着する12番のルート、もしくはサンマルコ方面からジャルディーニを経由して向かう4.1番のルートでアクセスすることになります。これらの路線はACTVのヴァポレットのチケットで乗れるため、ベネチア観光の流れで気軽に遊びに行くことができます。12番ルートは、ムラーノ島のさらに先、ブラーノ島、そして半島のプンタ・サッビオーニまでをつないでいます。
この路線は日中は1時間に3便走っていますが、朝10時を過ぎる頃にはムラーノ島・ブラーノ島に向かう船は満員運行が続き、夕方の帰り便も大混雑するので日帰り観光する場合には早めの出発を心がけてください。ムラーノ島、ブラーノ島、トルチェッロ島まで日帰りで十分に回ることができます。
ムラーノグラス
ムラーノ島といえば、現代においても高級品として嗜好されるムラーノグラスの産地として有名です。ムラーノグラスの歴史は、ローマ帝国の崩壊とバーバリアンの侵略から逃れたローマ人が北イタリアのラグーンに定住した5世紀後半に遡ります。本格的にムラーノ島がガラス製造の中心地となったのは、1291年にヴェネツィア政府が本島での火災防止と技術流出の防止を目的にヴェネツィア市内のガラス工房をムラーノ島に移転させて以降のことになります。
現代人の我々からすると、伝統的なガラス細工は今更ありがたがるようなものでもないのですが、それでも高級ホテルや高級レストランなどで目にするグラスの中には目を惹くものがあるのも確かです。例えば、この写真のパラッツォ・ヴェーナルトのグラスなんかは見るたびに惚れ惚れする出来栄えです。
島の雰囲気とみどころ
ベネチアの街を歩き回っているといたるところにガラス細工のお土産が売っていますが、ムラーノ島まで来ればムラーノグラスの専門店が立ち並ぶエリアや制作工程をのぞくことができる工房なんかもあり、ここが本場であると感じることができます。船着き場の行列とは裏腹に、本島と比べれば島内は観光客もまばらで、のんびりした雰囲気が感じられます。が、逆に言えばあまりランドマーク的に見て回るようなところはないという感じですね。ガラス博物館と3つの教会くらいでしょうか(教会はそれぞれ歴史があり、聖遺物やベネチア派の巨匠の絵など注目すべきものがあるのですが)。
本島と違って、橋の数が少ないので島を渡り歩くには結構歩きます。そして、案外広い島なので歩き回ると結構疲れます。
本島へ向けた帰りのルートは、夕方以降、Murano Faro駅に大行列ができたりします。北西のマイナーな駅は閑散としておりすんなり乗れたりするので、ルート設計の参考にしてみてください。
マッツォルボ島
島へのアクセス
12番のルートでムラーノ島からさらに北上した先にブラーノ島があります。ブラーノ島は長い橋で隣の島と接続しているのですが、それがマッツォルボ島です。どちらの島もそれほど大きくないので、マッツォルボの駅で降りてブラーノ島まで歩いて渡ってもせいぜい10分ほどの距離感です。
島の雰囲気とみどころ
マッツォルボの駅を通りすぎた先、ちょっと小洒落たレストランが目を引きます。このVENISSAはブラーノ島にある5つ星ホテルのカーサ・ブラーノを運営しています。ブラーノ島に宿泊する場合、観光客が行き交う中心部ではほとんどのレストランがかなり早い時間に閉まってしまうので、食事難民にならないためにこのお店を予約しておいてもよいかもしれません。僕はここで朝食をいただきましたが、夜も期待できそうなクオリティでした。
離島エリアでは、本島では見ることのない畑がある島も多いのですが、このマッツォルボ島には巨木が覆い繁るエリアやブドウ畑などが広がっていて緑あふれる雰囲気です。緑と運河に囲まれた道を歩くのはかなり気持ちがいいのでぜひ島をぐるっと一周してみてください。朝、散歩してみると、ジョギングやウォーキングをしている地元の方たちと何度もすれ違うと思います。
マッツォルボ島とブラーノ島を結ぶロンゴ橋(Ponte Longo)。その名の通り長い橋です。
ブラーノ島
島へのアクセス
マッツォルボ島を超え、長い橋が見えるとすぐムラーノ島に到着です。ブラーノ島からは30分ほどの乗船時間です。ムラーノ島を経由する12番のルートのほかに、サンマルコからリド島を経由して14番のルートでも行けるようですね。
島の雰囲気とみどころ
数日の滞在ではとても回り切れない魅力満載のベネチアですが、貴重な一日を割いてでもブラーノ島は訪れる価値があります。日中は観光客でいっぱいですが、観光客が去った後の誰もいない島の姿を見るために1泊してみるのも悪くありません。小さな島なので日中の滞在だけでも十分島全体を歩き回れます。
ブラーノ島の家はカラフルに塗り分けられていることで有名ですが、ガイドブックなどでは、漁師が帰港したときに霧の中でも見分けがつくように鮮やかな色が塗られたという説が紹介されていますが、他にもブラーノ島では多くの住民の性が同じだったために家の色で住人同士の識別を行ったとか、夫が漁に出ている間に女性たちが家のメンテナンスにカラフルな塗料を使ったとか、複数の説があるようです。
イタリア各地の漁港村の家々が同様にカラフルなので、帰港地をわかりやすくするために塗られたという話には一定の説得力があるようには思いますが、まあ、いずれにせよ、日中、日光に照らされて鮮やかに発色する家々の景色は写真で見るよりもずっと心躍るものでした。
【絶景】世界遺産チンクエ・テッレの5つの村を踏破する斜塔といえばピサの斜塔が思い浮かびますが、潟の上に木杭を打ちこんだゆるい地盤のベネチアにも数多くの斜塔があります。そのうちの1本がブラーノ島のセント・マルティン司教教会の鐘楼です。遠目に見ても明らかに傾いた斜塔は、近づくとかなりの迫力ですが、近づきすぎると写真ではうまく傾き具合が撮れないので、遠景で納めるのが撮影のコツです。この教会にはティントレットのキリスト降架を描いた絵画が飾られていますのでお見逃しなく。
あと写真右手の青い建物の奥の肌色の建物がレース博物館ですね。
島の名産品
ブラーノレース(刺繍)
ブラーノ島は、16世紀にブラーノレースとして知られる複雑で洗練されたレース技術を編み出したことにより、そのレース製品はルネサンス期にはヨーロッパ全土に流通しました。18世紀には産業革命の影響で廃れましたが、19世紀以降、レース産業の復興のためにレース学校が開設されるなどし、現在でもブラーノ島の文化的遺産としてその名を知られています。
島内に向かう道中、こちらの家族経営のレース屋さんが目を引きますが、レース制作の実演ツアーみたいなこともやっていました。手作業であれだけのレースを編み上げるのはかなり根気のいりそうな工程でした。
ブッソーラ|Bussolà
ブラーノ島が発祥のブッソーラは、見た目通りのバタークッキーなのですが、食べてみるとくせになる味です。ベネチア本島はもちろんイタリア各地でも売っていたりするのですが、ブラーノ島のものはマーガリンではなくバターが使われているということで本島で売っているものよりもちょっと高額です。
ホワイトリゾット|Risotto di gò
島の名物として、白魚とパルメザンチーズのリゾットが有名です。
ミシュランの星付きレストランのTrattoria Al Gatto Neroや、Trattoria da Romanoあたりが有名らしいですが、この島のレストランは営業時間が変則的なので、空いているかどうかは時の運ですかね。僕は食べ損ねました。タイミングが悪かったのかもしれませんが、島のレストランの営業時間はGoogle Mapのものが軒並み見当外れでした。。。
5つ星ホテル ホテル・ブラーノ
マッツォルボ島のところで紹介したVENISSAが運営するホテルですが、宿舎が島内の5か所に分かれているためスタッフに案内してもらう必要があります。ホテルを予約すると、島に向けて出発する際に電話で連絡するようにメールが来ていたのですが、まんまと見落としてしまっていて、島に着いてからチャットでやりとりするなどしてかなり時間ロスしてしまいました。連絡手段がない場合は、上の写真のVENISSAの建物にスタッフがいるのでトルチェッロで降りて直接向かえば案内してもらえるかもしれません。
ともあれ、無事スタッフと落ち合うことができ、レース博物館の並びにある建物の部屋に案内されました。ホテルの付帯施設は小さな中庭とセルフサービスのネスプレッソや紅茶のセットが用意されているくらいで、正直、4つ星評価が妥当だと思いましたが、部屋はまあ悪くはありません。
朝食はVENISSAのブドウ畑の横でコンチネンタルビュッフェが提供されました。
ブラーノ島は宿泊施設の選択肢が少ないですが、観光客でにぎわう日中の雰囲気とは全く異なる静かな島本来の姿を1泊して味わってみてはいかがでしょうか。ここに載せたような人がいない写真は日中は撮れないと思います。
トルチェッロ島
島へのアクセス
ブラーノ島まで来たなら、そこからほんの少し先のトルチェッロ島にも足を運んでみましょう。島を往復で結ぶ9番ルートの船は発着場所は12番線の発着駅のC駅から西に少し歩いたA駅の場所にあります。早朝や夕方以降は12番ルートがトルチェッロ島も経由するルートに変わるようですので、駅前の掲示板を確認しましょう。
島の歴史
トルチェッロ島は、ベネチアの潟の中で最も古くから人々が住み着いた島のひとつで、10世紀頃にはこの地域の政治的・経済的な中心地になっていたそうです。しかし、12世紀からトルチェッロは運河の埋没、マラリアの蔓延、そしてヴェネツィアの重要性の増大などの要因により衰退をはじめ、13世紀には多くの住民がベネチア本島に移住し、トルチェッロはほぼ無人となってしまったという歴史を持ちます。
悪魔の橋|Ponte del diavolo
ベネチア本島に無数にかかる橋の中で欄干がない橋は1本だけありますが、このトルチェッロ島の運河にも欄干のない橋がかかっています。その名も悪魔の橋。
サンタ・マリア・アッスンタ聖堂
1008年に建てられたサンタ・マリア・アッスンタ聖堂はベネト・ビザンチン様式の立派な建築物です。教会の鐘楼には5ユーロで上ることができるので、ぜひ登ってみてください。潟が広がる様子に、かつてこの地に住むことを余儀なくされた人々が、どのような場所を開拓していったのか、そのイメージが膨らみます。目をこらすと、このあたりの島々ではブドウ畑が整備されている場所が多いことにも気が付きます。
僕は長年、バーバリアンから逃げてラグーンに住み着いたというのを言葉で聞いてもどうもイメージできないでいたのですが、この塔からの風景を見て、ずいぶん具体的なイメージを伴って想像できるようになりました。そういう意味で、ここは歴史好きな方には訪れる価値がある場所です。写真や言葉では伝わらない何かがそこにはあるように思います。
リド島
島へのアクセス
ベネチアを海から隔離する役割を担うリド島は、ベネチア最大の島でもあり、他の島々とは違って島内を車が走ります。それだけに船着き場もいくつもありますが、本島からヴァポレットで向かうのであれば、1番または10番を利用してLido S.M.E駅に到着するのが一般的なルートになると思います。Aliagunaの船も空港からこの駅までを往復しているので利用することができます。
島の雰囲気とみどころ
島に着くなり他の島々とは異なる様子に戸惑います。そう、駅前にいきなり車道が現れるのです。他の都市ならなんてことのない普通の景色ですが、ここもベネチアだと言われるとちょっと戸惑ってしまいますね。ベネチア国際映画祭の会場などがあるのはこの島で、島内には飲食店など通り沿いにたくさんあります。ホテル価格は本島エリアよりも安めですね。10番ルートを使えば10分でサンマルコエリアにアクセスできるので、案外リド島でホテルをとるのも悪くないかもしれません。
本島から逆サイドに島を横切った先には広大なビーチが広がります。が、残念ながら海は枯れ枝などが大量に浮いていて、透明度もあまり高くありません。ビーチ目的なら、リグーリアやアマルフィ海岸を選ぶのが正解ですね。しかし夏場は大勢の日光浴客でビーチは溢れかえります。夏場はいろいろお祭りなどやっていそうですね。夜、花火が打ちあがっているのを本島の方から見たことがあります。
サン・ミケーレ島
ここはベネチアの墓島です。著名人のお墓もあるので訪問される方もいるようですが、僕自身は訪問したことはありません。12番ルートの発着駅のF. te Nove駅などカンナレージョ地区の北側の沿岸部からレンガ壁に囲まれた大きな島がブラーノ島の手前に見えます。
別記事にも書きましたが、空港からベネチア本島に向かう船は、ブラーノ島を経由する前に一度大きく迂回してこの島の前を通るので、旅人が一番最初に近くに見る島はこのサン・ミケーレ島になります。知らなければ、ただちょっと傾いた鐘楼の建つ教会の前を通り過ぎるだけですが、知っているとちょっと見え方が変わってきますよね。
僕自身は島に入ったことはありませんが、4.1番のルートでアクセス可能です。著名人のお墓も多くあるので、墓参りに訪問される方もいらっしゃるようです。
まとめ
うまく島々の魅力が書けたかどうかわかりませんが、離島巡りの参考になれば幸いです。
個人的には、やっぱりトルチェッロ島から見た景色が記憶に刻まれていますし、ブラーノ島の鮮やかさはイタリアの沿岸部の景観に勝る印象があったので、ぜひこの2島をおすすめしたいです。ムラーノ島とブラーノ島の間の小島が浮かぶ様子なんかも個人的にはすごく楽しかった記憶があります。
あとはさらに足を延ばしてベネチアの北西にある半島方面や、ジェノバとベネチアの戦争の舞台となった南のキオッジャあたりにも将来的には足を運んでみたいと思います。