旅先での食事はいつも悩みます。とりわけ世界屈指の観光地のベネチアは数えきれないほどの飲食店が並び。どこに入るかを決めるのはなかなか容易ではありません。
ガイドブックに載っているお店は間違いないお店も多いですが、連休時などは日本人だらけで興醒めしてしまうこともしばしばです。かといって英語の口コミサイトを見て訪問してもやっぱり大混雑。Google Mapの評価は全くあてにならないし、そもそも人気店は予約なしで入れることはまれです。
ホテルのコンシェルジュに聞いて予約してもらうのも一手ですが、それでも自力で穴場の大当たりのお店を見つけたときは最高の気分になります。この記事では、そんなお店に出会うために、そして目当てのベネチア料理を探すのに参考になりそうな情報を、僕が長年のベネチア訪問で撮ってきた写真とともにまとめてみたいと思います。
目次
イタリアの特徴的な食事スタイル
ヨーロッパの諸都市と同じく、従来は昼食をメインにする食習慣があったそうですが、近年は夕食の方がメインと考えるイタリア人が主流となってきているようです。実際のところどうかはわかりませんが、観光客目線では、レストランは昼と夜に営業しているものと考えて問題ありません。
軽い朝食
旅先ではホテルのレストランでビュッフェ形式の食事をとるのがメインになると思いますが、イタリアでは早朝から空いているカフェなどで、ドリンクとクロワッサンやブリオッシュなどがセットになったイタリアンブレックファーストなどと書かれたメニューが出ていたりします。
特にミラノなどの都市では、早朝にカフェでクロワッサンとエスプレッソをカウンターで頼んで、さくっと食べて出ていくビジネスマンをよく見かけますね。ベネチアでは見おぼえのない光景なので、上の写真はミラノで撮ったものです。
アペリティーボ|aperitivo
夕方の夕食前の時間帯に、アペリティーボと呼ばれるお酒と軽食を楽しむ文化があります。
街中を歩いていると、ずいぶん早い時間帯からオレンジ色の華やかな見た目のカクテルを飲んでいる人をテラス席で見かけると思いますが、これはスプリッツと言うドリンクで、オレンジベースのリキュールであるアペロールやカンパリとプロセッコ、ソーダ水などを組み合わせて作られます。イタリアのスーパーに行くとアペロールがずらっと並んでいるのをよく見ます。最近は日本のスーパーでもお酒の棚に並んでいるのを見かけますね。
アペリティーボででドリンクを頼むと頼んでもいないのにおつまみが出てきます(ポテチやサンドイッチなど)。これはドリンク代に含まれているので食べてしまっても追加料金がかかったりはしません。ドリンクをおかわりするとまた追加の皿が出て来たりするので、小食の方だとこれだけでおなか一杯になっちゃうこともあると思います。
食事のオーダー形式
日本でも本格イタリアンのお店に行ったことがあれば特に戸惑うことはないと思いますが、メニュー構成はおおむね下記のように並んでいると思います。
- Antipasti (前菜): 食事の最初に提供される小皿料理
- Primi (第一の皿): パスタやリゾットなどの炭水化物が中心
- Secondi (第二の皿): 肉や魚料理
- Contorni (付け合わせ): 野菜やサラダなどのサイドディッシュ
- Dolci (ドルチェ): 食後のデザートです
第1の皿、第2の皿のように聞くと、両方頼むのがマナーなのかなと思ってしまうかもしれませんが、もちろん全ての種類を頼むような必要はなく、好きなものを好きなだけ頼めば問題ありません。PrimiやSecondiを頼むと付け合わせに必ずパンが出てきます。食後にはデザートとともにエスプレッソなどを頼むのが一般的なので、食べ終わったタイミングで聞かれると思いますが、いらなければ断っても大丈夫です。
レストランの種別
イタリアの飲食店はおおまかに下記のように店の格式で呼び方が異なるのでお店選びの際に参考になるかもしれません。Google Mapなどで検索する際にお目当ての名称を入力するとある程度絞り込めると思います。
リストランテ(Ristorante)
コース料理がメインでソムリエがワインを選んでくれたりする、いわゆる高級料理店です。ドレスコードがあり、基本的に事前予約が必須と考えていいでしょう。5つ星ホテルにはいわゆるミシュランの星付きのリストランテが入っているのも見かけます。ドレスコードに関しては、観光客が多いベネチアではそれほど気にする必要はないと思います。短パンやタンクトップ、スリッパなどでなければ基本的に旅行中の服装でも問題ないと思います。
トラットリア(Trattoria)|オステリア(Osteria)|タヴェルナ(Taverna)
これらの飲食店は、歴史的に生まれた経緯が異なり、まとめると下表のような違いがあるのですが、実際の店舗を訪れてみるとあまり違いを感じないというのが率直な感想です。なんとなく日本人的にレストランと聞いてイメージする料理店に近いのがトラットリアで、より手軽に利用するならオステリアやタヴェルナかなといった具合で考えればいいと思います。値段設定も観光地設定のベネチアだとあまり差があるようには感じないですかね。
特徴 | トラットリア (Trattoria) | オステリア (Osteria) | タヴェルナ (Taverna) |
---|---|---|---|
雰囲気 | 家庭的、親しみやすい | カジュアル、家庭的 | 素朴 |
メニュー | 地元の食材を使った伝統的な料理 | 地元のワインとシンプルな料理 | シンプルで安価な料理 |
価格帯 | レストランより安価 | リーズナブル | 非常にリーズナブル |
サービス | カジュアルだがしっかりした接客 | カジュアルで家庭的 | 非常にカジュアル、セルフサービスもあり |
歴史的背景 | 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、都市化が進む中で家庭的な料理を提供する場所として発展 | 中世からルネサンス期にかけて、旅人が休む場所としても機能 | 古代ローマ時代には、商業活動や社交の場として機能 |
ピッツェリア|Pizzeria
その名の通り、ピザの専門店も街中にたくさんありますね。
バーカロ|Bacaro
バーカロは19世紀に起源をもつベネチア特有の飲食店です。スペインのバルをイメージすると近いです。カウンターにチケッティと呼ばれる小料理が並んでおり、指差しで頼みつつドリンクをオーダーします。気軽に1杯だけ飲んではしごすることができるので、通りに並ぶいろんなお店を体験することができます。
ベネチアの名物料理
東西貿易の中心地であったベネチアですから、当然、食文化に与えた影響も大きいです。ベネチアの伝統料理とされるものは数えきれないほどありますが、ここではいくつかめぼしいものをピックアップして紹介してみます。
イカ墨のスパゲッティ|Spaghetti al nero di seppia
定番中の定番のヴェネツィアの伝統料理ですね。ベネチアとシチリアに起源があるとされていて、イカのすべての部位を無駄にしないために考案されたものとされています。イカ墨の塩味とニンニクが効いた万人受けする味付けですが、結構、お店によって色味や味付けが違うのでいろいろ食べ比べてみても面白いかもしれません。
ちなみにイタリア人はパスタを食べるときにスプーンは使わないので、フォークとナイフが出てきます。あとパスタを麺のようにすすって食べるのは欧米では下品な食べ方なので、無意識にやっちゃってる人はちょっと気をつけましょう。
ビゴリ・イン・サルサ|Bigoli in salsa
ベネチアの伝統的なパスタ料理で、諸説ありますがユダヤ人コミュニティで生まれたとされています。ビゴリは太いスパゲッティ状のパスタで、その見た目どおり硬めのうどんのような食感で歯ごたえがあります。ソースはアンチョビや玉ねぎなどを白ワインで炒めてペースト状にしたもので素朴な味わい。
キリスト教の断食日に食べられる伝統があるそうで、ベネト州では「andar a bigoli」(ビゴリを食べに行こう)という言葉があり、「食事に行こう」という意味で使われるそうです。
サルデ・イン・サオール|Sarde in saor
揚げたイワシを玉ねぎ、レーズン、松の実、酢でマリネした料理。14世紀にベネチアの漁師たちが長い航海の間に魚を保存するために考案したものとされています。甘酸っぱい味わいで日本人の口にも合う料理ですね。前菜のメニューにあると思います。
Festa del Redenoreという、ペスト終焉を願って始まった7月第3土曜日の祭典の前夜に食べられるそうです。この祭典については、こちらに書きました。
フェガート・アッラ・ヴェネツィアーナ|Fegato alla veneziana
ベネチア風レバー炒めです。薄切りにした子牛のレバーと玉ねぎを炒めた料理なので、想像通りの味がすると思います。その起源はローマ時代にさかのぼることができるそうで、当時はレバーの風味を抑えるために無花果(イチジク)が使われていたそうですが、それをベネチア人が玉ねぎに置き換えてこの料理が生まれたのだそうです。
写真の右に写るポレンタが添えられて提供されるのが定番です。ポレンタはトウモロコシの粉を使ってる作られる北イタリアの伝統的な農村料理で、お店によっていろんなタイプのものが出てきます。もっさりしていて、個人的にはあえて食べたいという感じのものではないですが、日本では味わうことのない味がします。
スキャンピ・アッラ・ブサラ|Scampi alla Busara
ブザーラの起源については諸説あるようですが、トリエステやイストリア地方からベネチアに伝わったとされることが多く、ベネチアの漁師が船上で簡単に調理するために使った料理法であるとも言われています。名前の由来についても諸説あり、「busiaro」というヴェネツィア方言で「嘘つき」を意味する言葉から来ているという説や、料理に使われる鉄鍋「busara」に由来するという説があるようです。
スキャンピ(手長海老)とニンニク、トマト、唐辛子などを煮込んだ料理で、これが美味しくないわけがないですね。スープや、写真のようにスパゲッティのソースとして出てきます。
カルパッチョ|Carpaccio
カルパッチョは、ヘミングウェイをはじめとする著名人が通ったことでも有名なベネチアのハリーズ・バーで1963年に生まれた牛の生肉のスライス料理です。日本だとカルパッチョと言うと写真のように生魚をイメージしてしまいますが、もとは牛肉の料理です。カルパッチョという名前は、ベネチア派の画家カルパッチョの作品に赤と白の色調が多いことからその名前にちなんで名づけられたのだそうです。
僕が単に見逃しているだけかもしれませんが、牛肉のカルパッチョを出しているお店を見た記憶がないですね。。ハリーズ・バーも前は通っても中に入ったことがないので、今度行くときはカルパッチョをオーダーしに行ってみようと思います。あと海鮮の処理能力に関して日本がレベチすぎるので、海鮮のカルパッチョは日本で食べるクオリティを期待してオーダーするとがっかりすると思います。
ハリーズ・バー生まれのものといえば、今ではイタリア各地のスーパーに並ぶベッリーニというカクテルも有名です。1948年生まれのこちらもベネチア派の巨匠ジョヴァンニ・ベッリーニにインスパイアされて名づけられたそうです。
チケッティ|Cicchetti
特定の料理を指すものではなく、バーカロのカウンターに並べられる小料理の総称です。コロッケのような一口サイズの揚げ物が多く、スペインのバスク地方のピンチョスよりもさらにお手軽な感じですね。バーカロの店員も客に混じってお酒を楽しんでいる様子なんかも見かけます。
その他の海鮮料理
Ravioli Al Branzino (白身魚が中に入ったラビオリ)はベネチアよりもチンクエテッレやジェノバのあるリグリア地方でよく食べられる料理だそうですが、これも美味しいですね。
【絶景】世界遺産チンクエ・テッレの5つの村を踏破する魚介類を使った料理はどこのお店でも充実していると思います。焼き魚や魚のマリネ、パスタやピザなど、そんなに外れはないので気軽にいろいろと試してみましょう。個人的にはオーダーしないのですが、魚介の揚げ物なんかも定番料理ですね。
焼き魚をフォークとナイフで食べる経験はなかなかないと思いますが、ウェイターさんがきれいに魚から骨を取り分けてくれるのを見たりすると、こういう食べ方もあるのだなと日本では経験することのない発見があったりします。
ちなみにリアルト橋のそばにある魚市場は、市場が撤収した後の昼過ぎに行くと海鳥たちの戦場と化しています。ベネチアは鳩といいウミネコといい、人に慣れ切った鳥が多いのですが、市場に残る残飯を求めて威嚇しあっていたり、お店に向かって鳴きまくっている様子はなんとも味わい深い光景です。
ラグー・アッラ・ヴェネタ (Ragù alla Veneta)
もちろん、肉料理もいろいろと選べます。よく見るのはこちら、肉を主体とした煮込みソースであるラグーのベネチア風に調理されたスパゲッティ。鴨肉とトマトを使わない点で他のラグーと区別され、「白ラグー」と呼ばれるそうです。いわゆるボロネーゼの亜流ですが、なじみのある味です。
ブッソラ(Bussolà)/ ブラネーリ (buranelli)
こちらは料理ではありませんが、ブラーノ島の伝統的なビスケットです。まあ、想像の範疇の味ではありますが、意外とくせになる味で、買ってしまうとついつい食べ過ぎてしまいます。ベネチア本島はもちろん、イタリア全土のスーパーの棚にも並んでいるのを見かけます。ブラーノ島のものはマーガリンを使わずにバターだけで仕上がっているということでちょっとお高いですが結構おすすめです。
もともと船乗りの妻たちが、夫が海に出る際に持たせるために保存性が高い食べ物として作っていたものだということで、数か月は日持ちするのでお土産に買って帰るのもいいと思います。
ティラミスやジェラート
ベネチアから電車で30分先の街トレビーゾ(トレビゾ)が発祥のティラミスやルネサンス時代にフィレンツェで生まれたというジェラートはぜひイタリア旅行で食べたいですよね。最近は日本でも手に入りやすくはなっていますが、ヨーロッパで食べる乳酸品はやはり日本のものとは一味違うので、それもあってかティラミスはイタリアで食べるものが格別に美味しいです。
トレビゾはじめベネチア周辺都市については下記の記事で解説しています。
ベネチアの近郊都市周遊のすすめおすすめのベネチアのレストラン
たぶんこの項目を目当てに当記事を探し当てた方も多いと思いますが、今後もベネチアを訪問する僕にとってはブログで紹介するメリットがないので書きたくないというのが本音です。。
が、一応、ホテルのコンシェルジュに聞けば推薦してくれるくらいの有名店をいくつか載せておきましょう。
Osteria L’Orto dei Mori
ティントレットの家の並びにあり、いわれのある3つの石像が並ぶ広場にテラス席が広がります。海鮮系を中心にベネチアの伝統料理を比較的リーズナブルな価格で提供しています。観光客が少ないカンナレージョ地区にあるので混んでいることは少ないですかね。とはいえここは本当は教えたくない店のひとつ・・・。
カンナレージョのこのあたりの運河沿いには他にも地元客で賑わういいお店が多いので、ぜひお気に入りの店を探してみてください。この通りの先、ティントレットの墓あるマドンナ・デッロールト教会も意外な穴場でおすすめです。
Bistrot de Venise
こちらはベネチア名物のうなぎ料理で有名なミシュランの星付きのお店。ダニエリのコンシェルジュに聞いて最初におすすめされたお店です。うなぎの調理は、ぶっちゃけかば焼きの方がおいしいですが、独特な調理方法で、提供時にふたを外した時にスモークがあふれてくる演出など遊び心もあるのでトライしてみてもいいと思います。
サンマルコ広場とリアルト橋を結ぶルート沿いにもたくさん飲食店があります。比較的リーズナブルなホテルが多い地域で、気軽に入れるお店も多いのでいろいろ試してみるといいと思います。サンマルコ広場のすぐ裏手に並ぶ立地の良いお店はちょっとクオリティに対して値段設定が高めです。その分、観光客慣れしていて片言の日本語で話しかけてくる店員なんかも多いので、英語が苦手な方には入りやすいかもしれません。
ベネチアの絶対的ホテル、ダニエリのスイートルームステイ他には過去に記事を書いた下記のお店などもおすすめです。ALGIUBAGIOで食べたトリュフの味は僕の記憶の中では今でも一番の座を譲ってないですし、The Glamのヴェーナルトの中庭はベネチアでも一番好きな場所のひとつで、ぜひ体験してもらいたい場所です。グリッティパレスやセントレジスのテラスからのサルーテ教会を含む景観はベネチアを代表する景色のひとつですね。24年現在では、長期的にファサードが改修中ですが。。
ベネチアの絶景ディナー ALGIUBAGIO ベネチア随一の隠れ家ホテルの星付きレストラン The GLAM ベネチア最高峰グリッティパレスの極上スイートと高級テラスディナー ベネチアあとはあまり観光客が足を向けないジュデッカ島の沿岸部に結構いいお店がそろっているので、レデントーレ教会を訪問しがてら、歩いてピンとくるお店を探してみるのもおすすめです。ドルソドゥロ地区の景色を遠景に望みながら、のんびりした雰囲気の中で潮風と海のにおいを感じる体験は、本島中心部では味わうことのできない魅力があります。ヴァポレットの2番のルートで気軽にアクセスできるのでぜひ一度は足を運んでみてください。
まとめ
改めていろいろ並べてみて思いましたが、ベネチア料理といっても、日本人にとってはどれも想像の範疇の料理ばかりです。現地にしかないものを食べてみるのも旅の醍醐味ですが、イタリア、特にベネチアに関してはそこまでこだわらなくてもいいかもしれません。
バーカロやアペリティーボなど、お酒好きにとってはいろいろはしご酒ができる環境があるので、夜中まで飲み歩くのも楽しいと思います。どのお店の料理も観光地価格なのは否めないですが、比較的お酒はリーズナブルに感じます。気ままに歩き回って気の向いたところにふらっと入ってみるというスタイルでも楽しめるのがベネチアのいいところですね。
とはいえ食と住は旅の満足度に直結するので、ここぞというタイミングではなるべく満足度の高いものを選べるように事前リサーチをしっかりして、できればいいお店を見つけたら予約しておくことをおすすめします。