世界のフェルメール所蔵美術館巡り

日本人に大人気のフェルメール。昨年(2018年)からやっているフェルメール展では何と9点もの作品が日本で見られるということで例に漏れず僕も昨秋行ってきましたが、やはり大混雑の中、管理も厳しい日本の貸し出し展示ではなかなかじっくりと至近距離で作品鑑賞と言うわけにはいきません。しかし現地に行けば運が良ければ誰もいない中、じっくり心ゆくまで見ていることもできます。ということでこれまで海外各地の収蔵美術館で実物のフェルメール作品を見て回ってきた記録です。


現在開催中のフェルメール展@上野の森美術館外の看板。

ちなみに僕がフェルメール作品を初めて見たのは2000年。大阪市立美術館でやっていた「フェルメールのその時代展」の目玉作品としてやってきた『青いターバンの少女』でした。古典美術の本物を見たのもほぼ初めてで、美術館のライトに照らされたヒビの入ったマチエールの輝きに、こんなに力がある絵があるんだと衝撃を受けた記憶がぼんやりとあります。当時、テレビでも特集が組まれてたりもしていて日本でのフェルメール人気はこのときからなのではないかと推測しています。

さて、前置きはここまでにして写真ストックから並べてみます。

アムステルダム アムステルダム国立美術館

まずはこちら有名なI amsterdam の前にある美術館ですね。この美術館は多くのレンブラント作品を所蔵していますが、フェルメールも4枚もあり、何とここに行くだけで全フェルメール作品の10%を見ることができてしまいます。

フェルメール作品の展示エリアですが、見ての通り、とにかく人だかりです。このフロアには、美術館最大の目玉であるレンブラントの『夜警』もあり、その流れから人が絶え間なくやってくるのでなかなか落ち着いて鑑賞できませんが、そこは根気との勝負。中央と両端がフェルメールですが、この3枚が同時に人の頭で隠れないタイミングを狙ってずっとカメラを構えていました。

『牛乳を注ぐ女』

1658−1660年頃 油彩・カンバス 45.5 x 41 cm

フェルメールの作品の中でもターバンの女と並び最も有名と言ってもよい絵ですね。こちらの作品は何度も来日しており、今般の上野の展覧会でも目玉作品として取り扱われております。ゴツゴツした画面に力強さを感じます。黄色と青の発色も素晴らしい。

『青衣の女』

1663年頃 油彩・カンバス 46.5 x 39 cm

フェルメールの代名詞である青色がとても美しい絵です。ゴリゴリした質感ではなくなだらかで静かな画面。個人的に一番好きな絵です。

『小路』

1658年頃 油彩・カンバス 54.3 x 44 cm

フェルメールの2点しかない貴重な風景画。言われないとフェルメールと気づかずに素通りしてしまいそうですが、見落としてはいけません。しかしなぜかちゃんと写した写真が残ってなかった。。

『恋文』

No Photo・・・ 

1669年-1970年 油彩・カンバス 44 x 38 cm

この絵は僕が訪れたタイミングでは展示されていませんでした。4点も持っているので1枚くらいは常時貸し出しされていても不思議ではないですが、残念。

パリ ルーブル美術館

言わずと知れた世界でも最も有名な美術館。名画、名品がこれでもかというほど並んでおり、1日や2日ではとても回りきれません。こちらには2作品があります。

リシュリュー翼の奥にあり、朝一のタイミングで行けばこの通り、ほぼ人がいない状態での鑑賞が可能です。その時間帯で見かけたのは日本人と中国人数名だけでした。真ん中にレースを編む女、その右手に天文学者が並びます。ちなみにルーブルは朝の開場前からセキュリティチェックで大行列が出来るのですが、ピラミッド前の正面ではなく他の入り口から入るのが正解です(※予約入場制になったと聞くので現在はこのノウハウは使えません)。

『天文学者』

1668年 油彩・カンバス 51.5 x 45.5 cm

なんというか演劇的なポーズですね。この体制はモデルさん結構腰に来るだろうなとか思ってしまいます。他の絵にもよく出てきますが布の表情がとても綺麗だなと思います。非常口のライトが写り込んでしまっているのが残念。ルーブルは結構外の光を取り込んでいるところが多いのですが、その映り込みも結構入ってしまいました。

『レースを編む女』

1669年-1670年頃 油彩・カンバス 24 x 21 cm

存在感のある額縁に収まったとても小さい作品です。筆致を知るにはかなり近づいて見る必要があるので、これは作品との距離を取られる日本に来てもまともに鑑賞できないだろうなと思います。至近距離まで近づけるルーヴルだからこそじっくり鑑賞できます。

ロンドン ナショナルギャラリー

イギリスの水彩の巨匠ターナーをはじめ、多くの傑作を収容する美術館です。巨大なライオンの像で有名なトラファルガースクエアを目前に凛とした佇まいのいかにも美術館らしい美術館。

こちらのブルーの間に2枚並びます。

『ヴァージナルの前に立つ女』

1670年-1672年頃 油彩・カンバス 51.7 x 45.2 cm 

珍しい右向きの女性。ぱっと見た時これもフェルメールなの?と思いましたが、確かに布の質感や左窓からの採光などを見るとフェルメールらしい特徴を備えています。60年代に描かれた作品は黒い部分が多いですが、この頃の作品は全体に色が戻ってきたような印象がありますね。

『ヴァージナルの前に座る女』

1670年-1672年頃 油彩・カンバス 51.5 x 45.5 cm 

ひとつ上の絵とほぼ同サイズで左右反転で製作時期も似た頃なので何らかこの2枚に関係性があるのかななどと思いを巡らせます。やはり色が鮮やかな印象です。この絵に描かれた少女の表情や小道具の配置などはフェルメールらしい特徴を備えています。

フランクフルト シュテーデル美術館

ルーヴルの天文学者と対をなす地理学者を所蔵していますが、残念ながら僕が訪れたタイミングではどこにも見当たらず、どこにあるのか係員に聞いてみたらアメリカに貸出中とのことで、実物を見ることは叶わずでした。まあ、フランクフルトはトランジットの機会がよくあるのでそのうちまた。

『地理学者』

No Photo・・・

1668年 油彩・カンバス 52 x 45.5 cm

ベルリン 絵画館 

クラシックの殿堂、ベルリンフィルと同じ一画にあり、このあたりに宿泊すれば昼はアート、夜は音楽と素晴らしく高尚な一日が過ごせます。

ということで年末に行ってきたのですが、こちらの2点の収蔵作品は両方まとめて来日中です。(ええ、もちろん知っていましたとも・・・)

『真珠の首飾りの女』

1662年-1664年 油彩・カンバス 55 x 45 cm

来日中ということで、代わりにこんなポストカードが置かれていました。1枚お土産にもらってきましたが、英語版には下記のメッセージが書かれていましたが、とても粋な計らいだなと思います。

「Greetings from Tokyo!
Vermeer’s ‘Glass of Wine’ and I have arrived safely after more than 24 hours of travel. We’re at an exhibition here and people are very exited about us…
But actually, we’re looking forward to seeing you again in Berlin in mid-February 2019!
Yours sincerely, Young Woman with a Pearl Necklace」

ミュージアムショップにはこの作品をモチーフにしたグッズが色々売られていましたよ。

『紳士とワインを飲む女』

1658年-1660年 油彩・カンバス 66 x 76 cm

『真珠の首飾りの女』と同時に来日中。ブログ冒頭の看板写真の右下の絵です。

ドレスデン アルテ・マイスター絵画館

ドイツはザクセン地方の都市ドレスデンにもフェルメールが2枚あります。王宮の建物に併設された博物館の一つ。やはり音楽の都ドイツです。昼間にはあちこちの街角でこんな感じで音楽が流れています。

  『取り持ち女』

1656年 油彩・カンバス 143 x 130 cm

この絵は1月から来日中ですので、今現在(記事投稿当時)フェルメール展で見ることができますが、みなさんよりお先にじっくり鑑賞してきました。赤服のおじさんの持つコインの先が白光りしているのがとても印象的な絵なのですが、写真では全く伝わらないですね。

大胆な赤といい、大きなキャンバスサイズといい、フェルメールの初期作品のこの絵は、後期作品群とはかなり違った趣がありますが、非常に魅力的な絵だと思います。

展示場所はこのような片隅で下手すれば見逃しそうな位置どりです。のんびりみていましたがその間、誰もやって来ずとても贅沢な時間を過ごさせていただきました。

 『窓辺で手紙を読む女』

1657年-1659年 油彩・カンバス 83 x 64.5 cm

美術館の出口付近にこんな立て札が置かれていました。こちらの絵は渡独前に上野で見ましたが、現在修復中ということになっているようでした・・・。ちょっと不誠実な気がしますが、見れないことには変わりありませぬ。

ウィーン 美術史博物館

この写真の上部に映るクリムトの壁画で有名なウィーン市内にある美術史博物館にもフェルメールが1点あります。

『絵画芸術』

1666年 油彩・カンバス 130cm x 110 cm

小道具の多いこの絵はいろんな寓意が込められているということですが、そういう意味合い以上にやはり絵的に完成度が高いなと思います。この展示の後ろには複数のレンブラントが並びますし多くの名作が所狭しとありますが、ひときわ目を引くこの作品の前は人だかりが度々できていました。

ニューヨーク メトロポリタン美術館

世界最大級の美術館であるニューヨークのメトロポリタン美術館には、5つものフェルメール作品を保持しています。ヨーロッパ絵画のエリアは2022年春夏に改装中(その大部分の作品が来日していました)で、地下の特別展示エリアに移設されていました。連日大盛況の美術館ですが、エジプトゾーンなどと比べて非常に人が少ないエリアで、独り占めしつつじっくり鑑賞できます。

『少女』Study of a young woman

1666年-1667年 油彩・カンバス 44cm x 40 cm

ぼんやりとした雰囲気を目のハイライトの白が引き締めていて力強さを感じます。真珠の耳飾りの少女と同じ構図。真っ暗に見える背景の中もよく目をこらして見るとうっすらと背景の描き込みが浮かび上がってきます。

『リュートを調弦する女』Young woman with a lute

1662年-1663年 油彩・カンバス 51.4cm x 45.7 cm

全体にぼんやりとした雰囲気のフェルメール構図の作品。暗い部分のグラデーションが他の作品と比べて少なめに感じました。やはり黄色の発色はきれいで、耳飾りの真珠のハイライトなどフェルメールらしい表現が見られます。

『眠る女』A maid asleep

1657年頃 油彩・カンバス 87.6cm x 76.5 cm

フェルメール作品でよく見られる室内に女性と小道具が描かれた作品の最初期のものと言われるものですが、上のリュートを調弦する女などと比べて非常に鮮やかな色彩です。手前の布や瓶の質感など技術力の高さが見て取れます。女性の目尻あたりのハイライトや椅子の鋲のあたりの表現などフェルメールらしい特徴はやはりこの作品にも見られます。

『水差しを持つ女』Young woman with a water pitcher

1660-62年頃 油彩・カンバス 45.7cm x 40.6cm

光が全体に当たっているからか、他のフェルメール作品と比べてハイライトの表現が少ない作品です。デッサン力の高いフェルメールにしては珍しく手や顔のバランスがやや狂っているように見えます。

『信仰の寓意』Allegory of the Catholic Faith

No Photo…

「絵画芸術」と並ぶ寓意絵画2点のうちの1つ。こちらは2022年6月時点では日本のメトロポリタン美術館展への貸し出し中で現地で見ることは叶いませんでした。(国立新美術館で見ました)。絵画芸術よりも鮮やかな印象の絵でしたね。

ワシントン ナショナルギャラリー

アメリカの首都ワシントンのナショナルギャラリーにも4点のフェルメールが揃って展示されています。

『天秤を持つ女性』

1662-63年頃 油彩・カンバス 42cm x 38cm

最後の審判の絵画を前に天秤を持つ女性というこの後に描かれる寓意絵画のような寓意的な意味が込められた作品。左窓から落ちる光の印象も少し神々しい印象でしょうか。

『手紙を書く女』

1665年頃 油彩・カンバス 45cm x 40cm

黄色い衣装が印象的なこの作品は、当記事を書いた頃を含めて4度来日しています。振り向いてこちらを向いている数少ない作品の一つですが、フェルメールの特徴的な青と黄色がやはり印象的な作品。

『赤い帽子の女』

1665-1666年頃 油彩・カンバス 23.2cm x 18.1cm

ぼんやりとした表情に顔にかかるハイライトの光がとても印象的な小さな作品。黄色、青色が特徴として挙げられるフェルメールですが、この作品といい赤の色使いもうまいなと思います。ただ、この絵は次のフルートを持つ女とともに真贋が議論される作品でもあります。

『フルートを持つ女性』

1665-1670年頃 油彩・カンバス 20cm x 18cm

この作品もとても小さなもので、帽子のデザインが特徴的ですね。手の質感を見ると確かに他のフェルメール作品とは違う印象を受けるので真贋が問われているというのもわかる気はします。

番外編:ルーヴル・アブダビ

アラブ首長国連邦のアブダビにできたルーブル美術館の姉妹館を訪れた際、フェルメールの企画展示に巡り合いました。ここでは2点、そのうち一つは左の『レースを編む女』。パリのルーブルで見た時とは額装が違っていました。しかもこちらでは厳重にガラスで保護されていました。

ヴァージナルの前に座る若い女

1670-72年 油彩・カンバス 25cm x 20 cm

ロンドンのナショナルギャラリーの作品と同時期のもので、構図も同様ですね。この作品は個人蔵の作品なので、こういった貸し出し展示でしか見ることができません。偶然の出会いに感謝です!

ルーブル・アブダビの訪問記はこちら > 昼と夜で表情が変わるルーブルアブダビ

まとめ

日本での展示も含めて35点中、26作品まで鑑賞してきました。が、まだ全作品踏破までは長い道のりです。ライフワークの一つとして、のんびりと制覇していくつもりなので、出会えなかった作品も含め、残りの作品も見てきたら更新していこうと思います。

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