アートの都で見るべきベネチアの美術館・博物館巡り

ヨーロッパの海運覇権を長く握ったベネチアは、世界の逸品の一大集積地でもあります。贅を尽くしたベネチアングラスやベネチア刺繍といった工芸品でも有名ですし、現在は2年に一度の現代アートの祭典、ベネチアビエンナーレ、あるいはベネチア映画祭などが開催されることでも有名ですね。

ビエンナーレの開催時期には町中の宮殿や教会など至る所がアート会場と化すので、アート好きな方はぜひそのタイミングを狙って行ってもらいたいところですが、もちろんベネチアには常時開館している有力な美術館がいくつもあります。

当記事では、そんなベネチアの美術館巡りのポイントを解説してみます。

※ベネチアについては、ヴェネツィア、ベニスなど表記揺れがありますが、当ブログでは「ベネチア」の呼称を採用しています。

ベネチアとベニスは何が違うの?にお答えします

ベネチアの有名美術館・博物館総覧

アカデミア美術館

まずベネチアで外せない美術館といえば、ここ。

ベリーニ、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼなどなど、ヨーロッパ絵画に影響を与えたベネチア派の巨匠の作品が所狭しと並びます。さらに企画展として現代アートの展示などもあり、ベネチアのみならずイタリアを代表する美術館のひとつと言ってもよいでしょう。

建物自体も後世に大きな影響を及ぼしたルネサンス期の建築家アンドレア・パッラーディオによるもので、建築好きの方にとっても訪れる価値のある場所です。ちなみにベネチアにおけるパッラーディオ建築は、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会、レデントーレ教会、レ・ジテッラというファサードが同方向に向いた3つの主要建築物があります。

またベネチア近郊の都市、ヴィチェンツァの市街は「ヴィチェンツァ市街とヴェネト地方のパッラーディオ様式の邸宅群」として世界遺産にも登録されているのでベネチア観光と合わせて行っておきたい都市のひとつです。

立地的には観光の中心部となるサンマルコエリアと美術館が集まるドルソドゥロエリアを結ぶアカデミーア橋のすぐそばにあり、美術館巡りをするなら最もアクセスしやすい場所のひとつであると言えます。美術館そばのアカデミーア駅は南北いずれに向かうヴァポレット(水上船)も停泊するため、水上移動でもアクセスが容易です。

この美術館は8時15分から19時15分までと開館時間が長いため、弾丸観光での時間調整にはとても有利ですね。一般的に休館が多い月曜日でも短縮営業とはいえ開館しているというのも利点です。

地上階と1階の2層に分かれ、時系列にヴェネツィア派の絵画を中心に展示されています。教会美術で発展したベネチア派らしく、巨大な作品が多いのが特徴的です。タイミングによっては現代アートの特設展などをやっていることもありますね。

展示数はそこそこありますが、それほど広くもないので1時間くらいあれば一通り見て回ることができるというのも気軽に入りやすいポイントです。

冷房設備が扇風機だけしかないエリアもあるので夏場はちょっと暑かったりしますが、それはそれで中世の雰囲気を感じるのに良いのかもしれません。

プンタ・デッラ・ドガーナ

言わずと知れた安藤忠雄が監修した現代美術館。グランドカナルの出口に位置する三角形の特徴的なレイアウトが目を惹きます。その外観は隣接するサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会とともにベネチアの景観画に描かれることも多い歴史的な建造物ですね。

イタリアの旧建築と安藤の剥き出しのコンクリートが調和し、美術館そのものも鑑賞に耐えうる必見の美術館ですが、常設展示がない代わりにいつも企画展をやっているので、どんな展示と出会えるかは時の運です。チケットを購入すると後述するグラッシ館にも入れます。

詳しくは下記の記事でまとめているので合わせて読んでみてください。

【安藤忠雄設計】ベネチアの現代美術館「プンタ・デラ・ドガーナ」

グラッシ館

プンタ・デラ・ドガーナと同じく現代アートの企画展示が開催される美術館です。

サン・マルコエリアにありますが、他の美術館と比較すると若干徒歩でのアクセスが悪いように思います。が、水上船移動であれば、S. Samuele駅からすぐなので、プンタ・デラ・ドガーナから水上移動でアクセスすれば問題ありません。

宮殿建築の中に広がる現代美術館の風景は日本では見られない景観なので時間が許せば見ておきたいところですかね。

ペギー・グッゲンハイム・コレクション

グッゲンハイム美術館といえば、ニューヨークやビルバオが有名ですが、ここにあるペギー・グッゲンハイム氏の邸宅を美術館にしたペギー・グッゲンハイム・コレクションも外せません。有名な現代アートが所狭しと並ぶのに加えて、ここも企画展を頻繁に開催しているので訪れるたびに新しい発見がありますね。

あとはお土産ショップが充実しているのでぜひ覗いてみましょう。個人的にはここで買ったマグカップをずっと愛用していたりします。

アカデミア美術館とプンタ・デラ・ドガーナのちょうど中間地点にあるので、この二箇所と合わせて徒歩でめぐるとアート三昧な1日が過ごせると思います。ここは屋外カフェも併設されているのも利用しやすいかなと思います(昼時は人でいっぱいですが・・・)。

水上船に乗っていると運河沿いからも美術館がこのように見えるので、移動中は注目してみてください。

コッレール博物館

サンマルコ広場のナポレオン翼と呼ばれる、ナポレオン統治時代に増改築された部分に入り口がある博物館です。ここにはベネチアの海洋史に関わる歴史的な展示に加えて、時系列にテーマに沿った美術作品の展示、さらにオーストリア皇紀エリザベートが旅行時に利用した居住空間が再現されたエリアやナポレオンによるネオゴシック様式の部屋やポールルームなどのエリアも最近アクセスできるようになりました。

かなりの展示ボリュームなので、2時間程度はみておきたいですね。テーマ別にまとめられているのでベネチア派絵画に興味のある人にとっては、非常に学びやすい場でもあります。夏場の金曜土曜については、夜11時まで開館しているので(ほかのいくつかの美術館も同様)タイミングによっては、うまく時間調整に使えるかもしれません。

コッレール博物館は、サンマルコ広場の博物館共通パスで、ドゥカーレ宮殿や国立考古学博物館、マルチャーナ図書館記念室に合わせて入場できますので、サンマルコ大聖堂や王の庭園などと合わせて、丸一日、サンマルコ広場周辺ですごすのも悪くはないと思います。

また、ベネチアUNICAのミュージアムパスの対象にもなっています。めちゃくちゃわかりにくいサイトですが、公式サイト(https://www.veneziaunica.it/en)で事前のオンライン購入が可能です。※別途、解説記事作ろうとは思いますが、メインどころがあんまり対象じゃないのでぶっちゃけこのパスは買わなくてもいいと思います。

ちなみにこの博物館があるサン・マルコ広場は、僕が世界で最も好きな場所なのですが、その魅力は下記記事にまとめているのでぜひ合わせて一読ください。

【早朝から深夜まで】ベネチアのサンマルコ広場観光案内

カ・ペーザロ国際近代美術館

サン・スタエ駅から裏路地を沿ってアクセスするのが便利な立地の運河沿いの近代美術館です。

クリムトやロダンなど、近代のアート作品の展示が中心で「考える人」の展示もありますね。美術館的にはエアコンがついていない3階の東洋美術のコレクションが文字通りホットだということでおすすめされました。日本や中国の武具などのコレクションは確かにヨーロッパでは屈指の物量ではあるものの、日本人的にはあえてベネチアまで来て見る必要があるかと言われると微妙ですかね。とはいえ地味に円山応挙の作品がひっそりと飾られていたりもしましたし(みんな素通りしてましたが・・・)、意外な掘り出し物があるかもしれません。

世界で見かけたロダンの「考える人」コレクション

この美術館もミュージアムパスの対象なので、パスを買ったらぜひ行っておきたいですね。

カ・ドーロ(フランケッティ美術館 Galleria Giorgio Franchetti)

ここも運河沿い、カ・ドーロ駅からすぐにある美術館です。もともとベネチア貴族の邸宅でしたが、その名のカ・ドーロとは「黄金の館」を意味し、かつてはその外観に金箔と多彩色の装飾が施されていたことからその名がつけられたと言います。

フランケッティ男爵が1894年に購入し、1922年に国家に寄贈されて、現在はその名を冠したフランケッティ美術館として運営されています。通路沿いで入り口がわかりづらいので地図をよく見ながら探してください。

ここも有力なコレクションが数多く収蔵されているのですが、24年現在は1階が改装中で主要コレクションが展示されていませんでした。。。それでも地上階の広場や2階のバルコニーからの運河の眺めも素晴らしいので、ぜひ訪れておきたい場所ではありますね。

カ・レッツォーニコ

カ・レッツォーニコ駅に隣接しているかと思いきや、地味に駅からは隣の島にあるという謎立地の美術館。教皇クレメンス13世に選出されたカルロ・レッツォーニコを輩出したベネチア貴族のレッツォーニコ家によって1756年に完成された宮殿です。広い庭もあり、美術館に入らなくても庭の見学はできるようです。

4階建ての建造物で、18世紀美術館と銘打たれるように、その時代の充実したコレクションがあります。個人的には希少なカナレットの版画作品がそろって展示されていたのが眼福でした。現在のベネチアと変わらない姿が描かれている18世紀のベネチアの景観画はベネチア好きとしては見逃せないものばかりです。

18世紀の風景画と見比べてわかるベネチア今昔

また、家具や装飾品などの展示もあり、他の美術館同様にベネチア貴族の生活様式を垣間見ることができます。

パラッツォ・カヴァッリ=フランケッティ Palazzo Cavalli-Franchetti

美術館サイト

ここも企画展中心の美術館なので、他の美術館と比べると訪問の優先度は落ちるかなと思いますが、アカデミーア橋のたもとで目を引く屋外展示がされているのが見どころです。訪問のたびに異なる作品が展示されているのを見るのは個人的にベネチア訪問の楽しみの一つです。アカデミア美術館の対岸にあるので、水上移動時には注目してみてください。対岸のアカデミア美術館と合わせて訪問するのがよいかもしれません。

ベネチア海洋史博物館

ビエンナーレ会場に近いアルセナール駅の前にあり、観光の中心地からは外れますが、余裕があれば行っておきたい博物館です。

5階建ての建物の中にこれでもかと海洋にまつわる展示品が集められており、かつての海の覇者ベネチアを感じられる濃密な空間です。実物の展示も多くあったりするので、ここはベネチア史を学んでから行けば結構楽しめる場所だと思います。特に大小さまざまな造船模型は、じっくり見ているといくら時間があっても足りないほどにそろっています。

【旅する前に読んでおきたい】おすすめのベネチア本まとめ

自然史博物館

旧トルコ人商館であった歴史的建造物に入るのが自然史博物館です。

カジノ駅の正面にある大運河でもひときわ目を引く巨大建築です(関係ないですが、カジノという言葉もベネチア発祥です)。ここは200万点もの標本を所蔵しているそうで、研究面でもかなり見ごたえのある展示があるそうなのですが… 個人的には興味はありつつもまだ行けていない場所のひとつです。建築規模的にも行ったら相当時間が取られるだろうなと思うとなかなか足が向かず。

ベネチア・ビエンナーレ

2年に一度の世界的なアートの祭典。奇数年開催でしたが、2021年の回はコロナの影響で一年延期、2022年の開催となり、以降偶数年開催と入れ替わりました。下記記事では、過去の訪問記録をまとめています。22年、24年ももちろん行ってきたのですが、記事の更新が間に合っていません。。

ベネチアビエンナーレ定点観測2013〜2019

定点観測していると、会場は同じでも徐々に設備の改善が見られるのがわかります。訪問のたびに中国館のインパクトが強くなっているのが印象的ですかね。昨年(2022年)は戦争の影響でロシア館は参加していませんでした。

ビエンナーレ会場はやや観光の中心地から外れるので、ビエンナーレメインで過ごすなら、下記のホテルがおすすめ。海洋博物館からも徒歩圏内で便利です。

ベネチアビエンナーレ会場至近、コスパ抜群の4つ星ホテルを2つ厳選しました 【ベネチアビエンナーレ至近】最新5つ星ホテル カ・ディ・ディオ

ベネチアの美術館巡り参考ルート

ベネチアは離島もありますし、足を伸ばしてドロミテ方面の山岳地帯なども魅力があるので、何日もかけてじっくり観光するのがおすすめです。ベネチア本島をめぐるだけでも1週間では全然足りないくらい多くの訪れるべき場所があります。

気まぐれに迷路のような路地を歩き回りつつ、観光名所や美術館にも入ってみるというのがおすすめではあるのですが、もし1日に詰め込んだ弾丸ルートで美術館巡りをするのであれば、次のようなまわり方がタイパMAXでしょうか。ただし、かなり体力は必要なので、できれば1日に2、3箇所くらいまでを想定した旅程にしておくのがよいとは思います。

アカデミア美術館 8:30 – 10:00

上述のとおり、早朝から空いているので、なるべく早い時間に訪れてみましょう。午前中は観光客や遊覧船も少ないので、アカデミーア橋からの優雅な景色も楽しめます。

ペギー・グッゲンハイム美術館 10:30 – 12:30

アカデミア美術館から徒歩で向かいます。昼には館内のカフェで軽食をとることができます。ミュージアムショップが充実していますし、美術館周辺にはベネチアングラスのお店なども散在しているので、ショッピングを楽しむのもよいと思います。

プンタ・デラ・ドガーナ 13:00 – 14:00

開館日に注意ですが、ペギー・グッゲンハイムからさらに東へ歩きます。美術館の前にあるベネチアのランドマークの一つ、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会にも入ってみましょう。この館内にもカフェがあるので、こちらで食事を取ってもよいかもしれません。

パラッツォ・カヴァッリ=フランケッティ 15:00 – 16:00

salute駅からaccademia駅まで1番の水上船で移動します(Googleマップが船の現在地をリアルタイム表示してくれるので活用しましょう)。アカデミーア橋を渡ってすぐ入り口があります。

グラッシ館 17:00 – 18:00

そろそろ体力の限界だと思うので、アカデミーア駅から1駅、S.Samuele駅まで水上船で行きましょう。1、2、Nの3ルート使えるので待ち時間は少ないです。グラッシ感は19時までやっているのであわてなくても大丈夫ですね。ただし、館内は階段を上り下りすることになるので最後は苦行となると思います。。。

このくらいのルート設計だと、1日でゆうに2万歩以上は歩くことになると思います。。

ビエンナーレの時期であれば、ビエンナーレだけでも全部回るなら弾丸でも丸1日必要ですし、上記ルートでは海洋史博物館を入れることができませんでした。ベネチア観光であればドゥカーレ宮も外せませんし、ムラーノ島やブラーノ島に行くのも1日がかりです。。。

もし2日に分割するなら、下記のような組み合わせでしょうか。

ベネチア歴史巡りDAY①アカデミア美術館
②ドゥカーレ宮
③コッレール博物館
③海洋史博物館
ベネチア現代アートDAY①プンタ・デラ・ドガーナ
②ペギー・グッゲンハイム美術館
③パラッツォ・カヴァッリ=フランケッティ
④グラッシ館

これでもまだちょっと詰め込み過ぎ感はありますが、不可能ではないと思います。

ということで、ベネチア観光はなるべくたっぷり日程を確保するようにしてみてください。

また、ベネチアには他の都市の追随を許さないほど多くの教会があり(VENEZIA TODAYというサイトによると137もあるらしい)、その内部には多くのベネチア絵画の傑作が展示されています。なにげなく入った教会にティツィアーノやティントレットなどの巨匠の作品が飾られていたりするので、美術館と合わせて近くの教会にも足を運んでみてください。

ベネチア派の絵画について、事前予習には下記記事がおすすめです。

ベネチア旅行の前に絶対学んでおくべきベネチア派の系譜

その他のベネチア関連のおすすめ記事

最後、おまけにベネチア旅行前のリサーチにおすすめの記事をいくつか貼っておきますのでご参考にどうぞ。

もう迷わないベネチア本島への入り方(陸路と空路を解説) 【旅する前に読んでおきたい】おすすめのベネチア本まとめ ベネチアの高級ホテルの選び方【5つ星ホテル完全網羅】 ベネチアの離島巡り案内

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