ベネチアの街中を少し歩いてみると、行く先々に教会があることに気が付きます。それもそのはず、ベネチアにはあのわずかな土地の中になんと130を超える教会が現存しているのです。しかも、東西貿易で栄えたベネチアの財力をもとに、各時代の最先端の建築様式を備えた立派な教会ばかりで、建築史の見本会場かのように多様な教会が立ち並んでいます。
カトリックの教会では、信徒たちの信仰を高めるために祭壇や天井に宗教画が描かれましたが、そのような教会をパトロンに持ち、発展していったのがベネチア派絵画です。とりわけルネサンス期にフィレンツェと並び黄金期を迎えたベネチア派の巨匠の作品は、今でも多くのベネチアの教会に残されており、それらを鑑賞して回るのもベネチア観光の醍醐味のひとつです。
また、中東貿易や十字軍の戦利品として持ち帰られた聖人の遺物などが数多く残されているのも特徴的です。当記事ではそんなベネチアの教会の中でもぜひ訪れておきたい場所を紹介してみたいと思います。短期滞在ですべてをめぐるのは難しいですが、気になったところがあれば足を運んでみてください。
ちなみにサンマルコ大聖堂は下記記事で書いているので、それ以外で個人的に行ってみて良かった教会を11か所ピックアップしてみます。
【早朝から深夜まで】ベネチアのサンマルコ広場観光案内目次
教会観光の注意点
観光名所となっている多くの教会は、入場に当たって現金支払いが必要です。3~6€くらいが目安ですので現金を忘れずに持ち歩いてください。また、基本的にノースリーブのシャツや短パンなどでは中に入れないのでご注意ください。その他、教会の入り口に禁止事項などはピクトグラムで掲示されていると思うので、確認して入りましょう。
教会周遊パス|Chorus Pass
ベネチアの観光パスの一部に、Chorus Passという18の教会にアクセスできるパスがあります。サンマルコ大聖堂やこの記事で紹介する主役級の教会の多くはこのパスの中に含まれていないのですが、公式サイトにある教会のうち、4つ以上を訪問すれば元が取れるので、いろいろ回ってみたい方は検討してみてもよいと思います。最初の教会へのアクセスから1年有効で、それぞれ1度ずつ入ることができます。ネットまたは対象の教会で直接購入することも可能です(が、買えないところもありそうでした…)。
VENEZIA UNICA PASSというベネチアの観光パスはおすすめしません(主力級の観光スポットがかなり含まれていないので、長期滞在でないと逆に高くつきます)が、このパスに紐づけてChorus Passを購入することになります。
このパスの買い方、使い方が史上最悪級にわかりにくいので、ポイントだけ解説しておきます。
ステップ①:購入ページ右側のMY CARDというところで「+ ADD CARD」を選び、名前を入れて自分用のカードを作ります。この時点では何のパスも含まれていません。ステップ②で利用したいパスをこのカードに登録していく形になります。
ステップ②:左の項目から、必要なパスを選んでいきます。日付を選ぶ欄があると思いますが、ここにはパスの利用開始日より前の日付を入れてください。教会パスは、MUSEUMSの項目の中にある「CHURCHES OF THE CHORUS CIRCUIT」が相当します。
船のチケットなどもこのサイトで買えますが、割引もなく、結局、現地で発券する必要があるので買うメリットはありません。不安な方は下記記事を読んでみてください。この10年でベネチアへのアクセスはめちゃくちゃ簡単になりました。
もう迷わないベネチア本島への入り方(陸路と空路を解説)ステップ③:必要なものを選び終わったら、CHECK OUTで購入プロセスに入ります。支払いが終わったら、バーコードがメールで送られてくるので、スマホで見せられるように保存しておきましょう。
では、改めてここからおすすめの教会を紹介していきます。
サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ聖堂|Basilica dei Santi Giovanni e Paolo
なぜかガイドブックにはほとんど載っていないのですが、ベネチアでも最も重要な教会の一つ。1296年から1430年にかけて建設されたゴシック様式の聖堂ですが、ここは15世紀以降、ベネチア共和国の元首(ドージェ)が埋葬される場所となり、25人もの元首が埋葬されています。聖堂内には見事に装飾された墓が散りばめられています。
内部撮影禁止の教会も多い中で、ここはインスタにアップするのを促すような自撮り用の巨大な鏡が用意されていたり、見学するポイントをライトアップするボタンがついていたりと観光客フレンドリーなところはちょっと他とは異質な感じもします。
聖堂前に建つ銅像も要チェックですが、詳しくは過去記事のこちらを読んでみてください。
観光の中心エリアからは少し離れますが、観光名所となっている書店「アックア・アルタ」から北上すればすぐです。
サン・ジェレミア教会|Chiesa dei Santi Geremia e Lucia
サンタ・ルーチア駅から東に進んだ先、商店に紛れて見落としがちな教会ですが、ここはヨーロッパ各地で祀られている重要なシラクサの守護聖人サンタ・ルチアの遺体が安置されています。正門には両目をお盆に載せた女性の姿が描かれた絵が掲示されていますが、サンタ・ルチアは目を失っても見えたという伝承(そのエピソードは諸説あります)からこのように描かれます。彼女の聖遺骸は十字軍遠征でベネチアに持ち帰られ現在に至りますが、もともと安置されていたシラクサとのいざこざがあるとかないとか。
正門側は見落とされがちですが、何度も再建され、18世紀に現在の姿となったネオクラシックの教会の威容は、大運河側からはかなり目を引きますのでヴァポレットに乗って移動する際には注目してみてください。
サンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂|Basilica di Santa Maria Gloriosa dei Frari
「フラーリ教会」として知られる聖堂です。1250年に建築が始まり、1338年に完成、以後も拡張・改修が重ねられてきたベネチア最大級の建築の一つ。上の写真には写っていないですが、ベネチアでも特に高い鐘楼を持ちます。この教会はその大きさも圧巻ですが、多くの重要な芸術作品が収蔵されています。その中でも、若き日のティツィアーノの出世作となった祭壇画「聖母子被昇天」は必見です。この作品はベネチア派はもとより、西洋絵画史においても非常に重要な作品です。また、ティツィアーノ自身の墓もこの教会に保存されています。
この教会も意外とガイドブックに載っていなかったりしますが、この周辺には他にもティエポロの若き日の作品群が納められたサンポーロ教会や、ティントレットの天井画が見事な大同信組合、ダ・ヴィンチ博物館などが集積しているので、リアルト橋から少し足を延ばして歩いてみるのがおすすめです。
サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂
ヴァポレットのサルーテ駅の前にあるベネチアを代表する聖堂の一つですね。ここを見逃す人はいないとは思いますが、お隣の安藤忠雄建築で有名なプンタ・デッラ・ドガーナと合わせて訪問したい教会です。ただ、記事執筆中の2024年現在、大規模修復中でファサードが見えなくなっています。
【安藤忠雄設計】ベネチアの現代美術館「プンタ・デラ・ドガーナ」この教会の前はベネチア観光では必ず通る場所のひとつなのであえて紹介するまでもないですが、アカデミア橋から、あるいはサンマルコの小広場や大鐘楼の上から、さらにはジャルディーニ方面からと、どこから撮っても絵になるので映える撮影スポットを探してみてください。
あと、サンマルコ方面からはトラゲット(Traghetto)というゴンドラを使った渡し舟で運河を渡ることができるので利用してみてもいいと思います。地図上、S. Marco Vallaresso駅のすぐ西側にターミナルがあり、対岸のRio Orseoloというところまでをつないでいる運河上の点線が見えるでしょうか。他にも運河上にはいくつか乗船スポットがありますが、ここは比較的すいていますね。わずか4ドルでゴンドラ乗船気分が味わえるのでおすすめです。現金手渡しなので手元に用意しておきましょう。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会
サンマルコ広場の南東の小島、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島にあるカトリック教会です。ここも、どのガイドブックでも紹介される場所なので入れるかどうか迷いましたが、一応書いておきます。
この島には8世紀から教会が存在していたそうですが、現在のルネサンス様式の教会は、1566年から1610年にかけて改築されたものです。アンドレア・パッラーディオの設計による重要建築の一つです。白い古典主義的なファサードが特徴的ですね。プンタ・デッラ・ドガーナから見ると真正面にファサードが見れます。
教会内部にはティントレットの「最後の晩餐」などの美術作品が収蔵されています。
ジョジョの奇妙な冒険 第5部の戦いの舞台になっていたのがこの教会の大鐘楼ですので、聖地巡礼をしたい方はお忘れなく。教会の入場料はありませんが、鐘楼に登るには現金が必要なのでご注意ください。
マドンナ・デッロールト教会|
観光客があまり足を運ばないカンナレージョ地区にある巨匠ティントレットゆかりの教会です。空港や離島方面からの船上からもこの教会の鐘楼が見えると思います。ティントレットの絵で囲まれた祭壇は必見(中央上下以外の絵がティントレットのもの)。人が少ないのでじっくり観覧できると思います。ティントレット自身の墓もここにあります。
サンタ・ルーチア駅から徒歩で20分ほどの距離感ですね。サンマルコ方面から向かうなら4.1番のヴァポレットを使ってOrto駅からアクセスしてもいいと思います。カンナレージョ地区にはティントレットの家もあるのでついでに寄って行ってください。ティントレットの家の並びのOsteria L’Orto dei Moriもおすすめですし、この周辺ではいいレストランが見つかると思います。
レデントーレ教会|Chiesa del Santissimo Redentore
パッラーディオによる建築で有名なジュデッカ島にある教会。ジュデッカ島も観光客があまり足を向けない場所なのでのんびりした雰囲気が味わえます。ジュデッカ運河沿いをのんびり散歩しつつレストランでランチタイムを過ごすのがおすすめ。
普段はほとんど人がいませんが、7月第3土曜日のレデントーレ祭りの日だけは別です。上の写真のように教会前に運河をまたぐ橋がかけられて出店も出て賑わうので、もしタイミングが合えばぜひ渡ってみてください。
ピエタ教会|Chiesa della Pietà – Santa Maria della Visitazione
誰もが聞き覚えのあるクラシックの名曲「四季」を作曲したビバルディゆかりの教会。ここもしばらくファサードの修復作業を行っていましたが、現在は工事は完了しています。四季を演奏するコンサートを行っているので、興味がある方は参加してみてください。教会の入り口でチケット予約ができます。
立地は観光の中心サン・マルコ広場の海岸沿いを東に歩くとほんの5分ほどの距離感です。スキアヴォーニの岸(Riva degli Schiavoni)と呼ばれるこのあたりは日中、出店や大道芸人などでとても賑わっています。
サン・セバスティアーノ教会|Chiesa di San Sebastiano
ルーブル美術館が所蔵する最大の絵画作品「カナの婚礼」を描いたことでも知られるベネチア派の巨匠、ヴェロネーゼが眠る教会です。ここもあまり観光客が行かないエリアですが、この教会の壁面や天井に描かれたヴェロネーゼの絵画は一見の価値があります。
このあたりも住宅街で観光客が足を向ける方面ではありませんが、実はヴェネツィア本島で最初に人が住み始めた場所と言われています。サンマルコ方面から徒歩でもそれほど時間はかかりませんが、ヴァポレット(水上バス)の2番や5.1番などを利用してSan Basilio駅で降りると楽ちんです。
サン・パンタレオン教会|Chiesa Parrocchiale di San Pantalon
ジョバンニ・アントニオ・フミアーニが20年以上もの歳月をかけて制作したと言う443平米の世界最大級の天井画がある教会です。天井の曲面に沿ってびっしりと描かれており、非常に見ごたえがある作品でした。
外観は地味で立地的にもあまり観光客が向かわない場所にあるので知らないと素通りしてしまいそうですが、すぐそばの橋のたもとにはバンクシーのグラフィティも残っているので合わせて見に行ってみるといいと思います。
サン・ピエトロ大聖堂|Basilica di San Pietro di Castello
もともとベネチアの司教座(教区の中心となる教会)の地位にあった聖堂です。聖堂横には白い巨大な斜塔があります。政教分離の方針が採られていたベネチアでは、政治の中心であったサンマルコ周辺ではなく、辺境地に宗教的な中心地が配置されていました。
聖堂名と同じ名前の島にあり、ここはビエンナーレのアルセナーレ会場の出口とジャルディーニ会場を結ぶ住宅街の近くにあります。このあたりはバックパッカー向けの比較的安い宿や民泊の宿などが見つかりますね。
まとめ
また記事の分量が多くなりすぎそうだったので極力数を絞りましたが、ベネチアにはまだまだ特徴的な教会がたくさんあるので、興味のある方はじっくり調べてみることをおすすめします。あるいは適当に気になるところに入ってみても意外な発見があるかもしれません。
ちなみに下記の書籍ではもうちょっと詳しく24の教会を掲載しています。Kindle Unlimitedでも読めるようにしていますので良ければお手に取ってみてください。